文楽仲間でもあるT姉さんと赴いた国立劇場。赤い文字が、引退を惜しむ声を象徴しています。
果たして、八代豊竹嶋大夫引退披露狂言『関取千両幟』は?師匠ご自身が語られた時間は短かったものの、そのお声には張りも厚みも深みもあって…。まだまだ続けていただけそう、願わくば続けていただきたいとそう感じたのは、T姉さんも同じでした。語り終えてお独りで床に残り、客席に深々とお辞儀なさる嶋大夫師匠のお姿に涙が滲みました。
ただ未来への光明も射す舞台だったと感じました。師匠引退に当たってのご挨拶役もお務めになった呂勢さんは爽快。そして三味線の寛太郎さん。「相撲場の段」で、お師匠さんでありお祖父様でもある寛治師匠が弾かれたあと、曲弾き(アクロバティックに“見せる”要素も入った演奏)を担当。堂々としたその佇まいは、一昨年の『壇浦兜軍記・阿古屋琴責の段』で三曲を弾きこなした時からさらなる成長を遂げたと実感させるものでした。
あと余談ですが、国立劇場での公演にはプラスαが色々用意されているように思いました。すじがきに挟まっていたこの冊子も。
きっと嶋大夫師匠の引退は次への扉。これからも、文楽から耳も目も離せなさそうと感じた1日でした。